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殺人者の法則(発見者:アルフレッド・ベスター) 汝に天性の殺人者の素質有りと考ふる時は、自らの本能に多くを委ねるべし。 [解釈] A.ベスターのヒューゴー賞受賞作『分解された男』中の一節。全銀河系を支配するモナーク物産 社長のライク家に伝わる 家訓である。時はエスパーの徘徊する24世紀。犯行前にその意図を見透かされてしまうため、 犯罪が不可能なこの 時代、ライクは無謀にも競争相手のクレイ・ド・コートニーを殺害せんと企てる。では、エスパー達の心理の網の目の一例を。 正直言ってだな、 カナペはいかが? ありがとう この超感覚で交わされる会話の中を、我らがベン・ライクは、女友達ダフィ・ワイガ&に教わった【《もっと引っぱる》いわくテンソル/
緊張、懸念、不和が来た】という理解不能なリフレイン(この創元文庫版の翻訳は傑作)によって突破する。このシーン、名作『分解された男』の最初
のクライマックスである。
[注] A.ベスター(1913-1987)は、ユダヤ系中流家庭生まれのSF作家。コミックス、ラジオ、テレ ビの各メディアでも、各々一家をなした天才、或いは天才肌の野心家である。その前衛的技法(前出のエスパー達の会話や、最高傑作『虎 よ、虎よ!』の主人公・ガリー・フォイルが味わう真珠の一房の描写)、心理学テーマ(父親殺しや自己発見といった主題)等、尊敬する ジョイスにも似た多面性が特徴である。 その華麗なる退廃趣味が最高に発揮された3大ヒロインをご紹介すると――
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「思想=アルファベット」の法則(発見者:ヴァージニア・ウルフ 1941年近くの川に入水自殺 享年59歳) 思想はアルファベットの階梯で現される。 [解釈] イギリス20世紀文学の代表V.ウルフが、中では取っ付き易い方の長編『燈台へ』で語った思想段 階説。彼女の父親をモデルにしていると言われるラムジイ氏が、暮れなずむ庭で思索を巡らす場面での描写である。 「仮に思想が(中略)26文字を並べたアルファベットだとすると、彼の優れた精神は(中略)まずQのところ迄は行っている」 で、その段階は当然、Zのところまであって、それは一時代に一人の人間が到達するかどうか、といった高水準を意味する。ラムジイ氏 は、散策しながら「さてRは…」とつぶやく。しかしその時‘とかげのまぶたのような皮膜’が彼の思考を覆ってしまう。Rはついに彼の ものとはならなかったのである。この感じ、特に‘とかげの皮膜’というあたりは、より低い階梯であるにせよ我々にも覚えがあるような 気がして、身につまされるものがある。 |
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「社会的手抜き」の法則 (発見者:B.ラタネ&J.ダーレイ) 集団で作業すると、個人で作業する時より努力量が減る。
[解釈] 心理学史上よく取り上げられる事件に、「キティ・ジェノヴィーズ事件」がある。1960年代のある日午前3時のニューヨークで、キティと名乗る若い女性が30分にわたりナイフで刺されて殺されたが、その殺害を38人(!)もの目撃者がいながら誰一人止めようとしなかった、という事件である。ニューヨーク大学のラタネとダーレイは、こうしたことが起きる理由を(逆説的に)「人が大勢いるからこそ誰も何もしない」と考え、それを拍手課題や発声課題(被験者に大きな拍手や大声を出すよう指示したところ、人数が増えるほど1人当たりの音量が減少する)といった実験で証明してみせた。すなわち「他者の存在」が“事件の緊急性”に@社会的影響を与え(他者が何もしないとそれに影響される)、A責任感の拡散を引き起こす(自分がしなくても誰かが手を貸すと考える)のである。
さらに言えば、殺人事件といった緊急事態に遭遇することは稀なので、自ら進んで行動せずに他人の反応・行動を参考にせざるを得ない、とも考えられる。「人々は愚かなことをするより死んだ方がまし」(喜劇作者兼ハーバード大教授T.レーラー)なのである。 |
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「集団極化」の法則 (発見者:J.ストーナー、マッコーレイ、テッサー&レオン) 個人の意見や判断は、集団経験を経ると、より極端になる。
[解釈] 個人の意見は集団討議や情報交換により、、より冒険的な方向に意見が変化する(これを「リスキー・シフト」という)。その理由としては、@集団で物事が決まると責任が曖昧になる、A集団の意見を左右するリーダーは冒険的な性向がある、等が考えられる。ただ反対に討議を重ねた結果、安全な方へ態度が変化することもある(マッコーレイの「競馬場実験」。これを「コーシャス・シフトという)ので、実際は両者をまとめる説明が求められるが、そこはまだ明確な結論が出ていないそうナ。 |
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「情動2要因理論」の法則(発見者:シャクター&シンガー、ダッド&アラン、ストームズ&ニスペット、ディーンストピア等) 情動を生じるには、@生理的な喚起とAその喚起を起こした理由についての情動的解釈(ラベリング)、という2つの要因が必要である。
[解釈] 「情動(emotion)」とは聞き慣れない言葉だが、要するに、怒り、恐怖、喜びなど、それを引き起こした原因が明確で、一時的だがかなり強い感情、を指す(これに対し、漠然とした持続的感情が「気分」である)。アメリカの心理学者S.シャクター(コロンビア大)とJ.シンガー(ペンシルベニア州立大)は、この情動の認知が、生理的な喚起(言い換えれば、興奮)だけでは特定できず、その覚喚起の情動的解釈(ラベリング)によって初めて成立する、と考えた。極論すれば“生理的な興奮”と“その解釈:”は実は関係がない、と主張したのである。
[注] 上記理論によれば、「生理的喚起」と「情動認知」は関係がない訳だが、その証明に成功した興味深い例が、S.ヴァリンズの「ヌード写真の実験」である。これは、男子大学生たちに「プレイボーイ」誌から取った10枚のセミ・ヌード写真を見せ、その間、偽の心音を聞かせると、心音を故意に高めた時のセミ・ヌード写真により性的魅力を感じた、というもの。この実験は、シャクターたちの仮説を証明しただけでなく、さらに進んで“実際の生理的喚起が起こっていなくても、「自分は今興奮している」と誤認すれば、その認知に対して情動のラベリングを行い、情動認知が成立する”ということを示してもいる。 |
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「心理操作」の法則 (発見者:D.リーバーマン) @「この人ならわかってくれる」と思わせたら勝ち。
[解釈] 対人心理学を応用したセールス・マニュアル本。 豊富な心理学的実例を配し、その説得力は類書を圧する。著者リーバーマンは、心理学者兼コンサルタントで、ビジネスマンのメンタルヘルス・ケアや全米トップ企業のコンサルタントとしても活躍しているという。
[注] 「本書」には他にも興味深い法則が多数取り上げられている。以下、代表的な法則をいくつか。 |
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「人生の意味」の法則 (発見者:V.E.フランクル 1905-1997) 人生の意味は、「外部」にある。
[解釈] アウシュヴィッツ強制収容所の体験を綴った『夜と霧』で著名な心理学者フランクルの、悲惨な体験の果てに掴んだ人生の真理。いささか解りにくいが、人生の意味は自分だけで完結するのではなく、
常に社会・他者といった「外部」との関係の中から生まれる、という主張である。仲間と共に収容所で死を待ったフランクルは、人生の意味はそうした仲間との共生の中にしか見出せない、と信じたのである。 |
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「死ぬまでにしたいこと」のリスト (発見者:N.キンケイド) 言いたかったら、本当のことを言う。
[解釈] 当項目は厳密には「法則」ではないが、世に出回る「成功本」の教え――“数日後に死ぬと考えよ。さすればあなたの本当にやりたいことがわかる!”――の応用編とお考えいただきたい。
02 1000冊の本を読む 11 性の奴隷になる 14 親父より有名になる(←氏の“親父”は、年配の人には懐かしい「百万人の英語」のタレント英語教師J.B.ハリスでありマス) 18 シンガポールのラッフルズホテルに泊まってジントニックを飲みながらサマセット・モームの小説を読む 37 ブックショップを開く 45 親友を5人作る 64 刑務所に入る 88 アトラス山脈を車で越える 99 離婚する なお、99の“願望”は現実のものとなったが、氏はそのことを悔やみ、「どんなひねくれ者でも、ネガティブな意味合いを持った夢や願望だけは書くべきではない」と痛切に告白している。 |
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「持続」の法則 (発見者:稲垣潤一) ひとつのことを続けるには、小さな自惚れが必要だ。
[解釈] 「ドラマチックレイン」や「クリスマスキャロルの頃には」などのヒット曲で知られる歌手(兼ドラマー)稲垣潤一がTV番組の鼎談で語った言葉。番組はTV東京系音楽番組「ミューズの晩餐」、お相手は寺脇康文と川井郁子である(’09.1.7放送)。
――「無根拠な自信が大事」。 上田氏の明るさもまた、多分にこの信念から来ていると思われる。 因みに、比較の仕様もないが、編者も時々家人に「その謂れのない自信はどこからくるの?」と言われます、ハイ。 |
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「食人種エーロチカ」の法則 (発見者:イリフ&ペトロフ) いっさいの用を弁ずるに、単語はわずか30で足りる。
[解釈] 「ドンキホーテ」や「外套」とならぶ“世界ユーモア風刺文学の最高傑作”(江川卓)と称されるのが、イリフ&ペトロフの「十二の椅子」である。上の「法則」は、その作品半ばに登場するチャーミングな技師の妻エーロチカの信念(?)。作者曰く――「シェクスピアの語彙の数は、専門研究家の計算によると、一万二千に達する。一方、食人種ムンボ・ユンボ族の語彙の数は、全部で三百である。ところで、シチューキン夫人エーロチカ(エレーナの愛称)は、わずか三十の単語を自在にあやつり、それでいっさいの用を弁じていた。」 これが“食人種エーロチカ”の由来である。で、そこで選ばれた主な語句は、以下の通り。
[注] 作者のうち、イリヤ・イリフはジャーナリスト出身、エヴゲニイ・ペトロフは(「孤帆は白む」で有名な)作家カターエフの弟で詩人。共にユダヤ系で、新聞社の編集部仲間だったという。合作「十二の椅子」(1928)は、ソビエト国内のみならず欧米各国 で翻訳されるほど好評。その3年後に発表の2作目「黄金の仔牛」(1931)も、前作に優るとも劣らぬ風刺文学の傑作であった。そして、この2作共通の主人公が詐欺師オスタップ・ベンデル。この“偉大なる策士”は、困難に遭っても常に前向きで、その口癖―「会議は続行中だ!」―は読者を妙に元気づけてくれマス。 |
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「心理歴史学」の法則 (発見者:I.アシモフ1920-1992) 充分に大きな人間集団の行動は統計的に予想できる。
[解釈] 「心理歴史学(サイコ・ヒストリー)」は、SF作家アシモフ(1920−92)がその未来史シリーズ「ファウンデーション」に登場させた夢の学問。作中の説明によれば――「…それは、社会・経済的な刺激に対する人間集団の諸反応を取り扱う数学の一分野であり…これら諸定理全てにおいて統計的処理が適正であるためには、取り扱う人間集団が充分な大きさを持つ、という暗黙裡の仮定事実があった。」(<エンサイクロピーディア・ギャラクティカ>←未来の百科辞典) 簡単に言ってしまえば統計学の初歩「大数の法則」の援用なのだが、そこはそれ、「ロボット工学3原則」を発明し生化学者としても一家をなした巨匠アシモフが(そして、作品中では天才社会学者ハリ・セルダンが)提唱しているため、いかにも尤もらしい響きを帯びるのである。この学問体系に支えられ<ファウンデーション>の中心トランターは銀河2500万の惑星を支配するが、その繁栄にも終焉が訪れる。すなわち<突然変異体>ミュールの登場、である。他人の感情を意のままに操るミュータントの出現は「心理歴史学」では予測できず(「大数の法則」では個々の突然変異を捕捉できない)、ために<フアウンデーション>は未曾有の危機に直面するのである。
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「数字の教える」人生法則(発見者:G.シャフナー) @個人的感情を交えず、数学的確率・統計から導き出される事実を直視せよ。 [解釈] 発見者は、コンピューター会社3社のCEOを兼ねるベテランのビジネスマン。簡単な数字を駆使した 人生法則はなかなかの説得力で、その著書『人生について数字が教えてくれること』は、人生論の隠れた名著と言って良い。 @まずは確率的人生観から:著者は、人生において‘頂点を極めなければ無意味だ’と言う考え方を捨てることが成功の秘訣、と言う。
そしてギャンブルで5割以上勝ち続ける確率は、胴元がいる限り有り得ないが、一回でも勝ち越した時にストップすれば、勝ち越しの可能性は
7割も有る、と証明する。即ち、現実的になって‘ホドホド’の結果で満足すれば、成功の可能性は高い、と説くのである(なお、ギャンブルはお
金のかかる娯楽で、お金が戻れば儲けもの、と考えればギャンブルにのめり込むこともない、という指摘も貴重であった)。 もうひとつは統計的視点の活用:例えば、学歴の差による将来の年収格差を考えると、「この世で一番お金になる職業は学生である」という 統計的事実が浮かび上がる。かくて、中退せずに学業に励め、という平凡なアドバイスが説得力を持つことになる。あるいは、所謂[80対20 の法則]が、統計的には[47対30の法則]に修正される、という発見。米プロ野球・バスケット・ホッケーの各1チームについて、スター選手と 普通の選手の出場機会を均等にすると、その貢献度は‘47対30’に収斂する、と言う。すなわち、3割の要素が全体の約5割の成果を稼ぎ出 す、という穏便な法則になるのである。(後掲「80対20の法則」参照)
A簡単な数学的考え方とは、例えば「正方形の論理」を指す。この‘周囲の長さが同じ四角形で最大の面積となるのは正方形である’
という定理に従えば、労働者は、インフレ率以上の賃上げを獲ち取らねばならず(貨幣価値が5%下落した場合、賃金が5%上がっても、実際は0.95
×1.05=0.9975で、もとの購買力よりも減少)、貯蓄は、短期間のハイリスク・ハイリターン型でなく若い時からの安定運用が一番(3年間の運用が、
30%、△30%、30%のリスク運用と各年7%の安定運用では、後者の運用果実の方が大)、となる。 B「個」と「全体」の視点とは、個人と組織の二つの観点から物事を捉えよう、というもの。この見方によれば、‘労働者は、会社に給料 以外の費用を出させている以上、その費用を上回る収入を稼ぎ出さねばならない’(「投資収益率」の考え方)し、ずば抜けた働きの社員が一人 いる組織より平均的で協調性の有る社員のいる組織の方が生産性が高いことが解る。人は組織の一員である以上、常に組織がどう動いている かを頭の片隅に置いておかねばならないのである。 |
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スタージョンの法則(発見者:T.スタージョン1918-1985) 何事も95%は屑である。 [解釈] SF作家スタージョンが、SF作品はクダラナイものが多いと言われたときに、それに抗して言った言葉。 或いは文学の新興ジャンルであるSFに、特にそれが当てはまる、と思って言ったのかも知れぬ。 彼はまた、「最近の有望新人はJ.ティプトリーJr.を除くと皆女性ばかりだ」という名言(尤も、後でテイプトリーJr.も女性だったことが判り、 遂に全員女性になるのであるが)も残している。骨太な幻想小説家スタージョンに、こうした意外なキャッチフレーズ作りの才能があったのが 面白い。
[注] 現代日本の百科全書派・立花隆は、最近のインターネットの流行を評して「90%以上は
屑だ」と言ったが、これも当法則のヴァリエーションのひとつと言えよう。しかし、だから駄目だ、と言っているのではなく、残り数%の可能性
を見よと、この(SFと同じような)新興勢力を励ましているのである。 ![]() |
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「ゼノンの逆説」の法則(発見者:山岡悦郎、足立恒雄、野矢茂樹、吉永良正他)
◎その1[アキレウスと亀の逆説]:俊敏なるアキレウスは、先行する亀がいた地点に無限に到達せねばならぬ故に、ノロマな亀に永遠に
追いつけない。 [解釈] ゼノンは、紀元前5世紀のギリシャの哲学者で、「万有は一で球状をなし、非在は思考不可能」と主張し たパルメニデスの弟子。異端の師の説を証明するため様々なパラドックスを発明した、とされる。この2000年にわたり人類を悩ましてきた逆説 は、しかし、今や完全に(数学的には)解明された、と言う。以下、編者の理解できた限りで、逆説解明のヒントを掲げたい。 その1[アキレウスと亀の逆説]:実際に両者を走らせてみれば、アキレウスが亀に追いつくのは自明であるが、それをパラドックスと感ずる
のは、アキレウスが‘有限の時間’内に、亀のいた‘無限の地点’を通過せねばならない、という印象に囚われるからである。
言いかえれば、「自然(あるいは行動)は連続体であり、無限大の情報を持つ(これを数学的には「無理数」を有して「連続の公理」を満たしている、と言う)。
かたや「意識」は「有理数的」で「不連続」である。つまり「不連続」な意識が「連続」した自然や行動を考え尽そうとしたために思考上の混乱が生じたわけで、
これこそが「パラドックス」の正体なのである。 その2[2分割の逆説]:これも、目的地に到達するためには無限の中間点を通過せねばならない、ということを‘ノロマな頭で考えよう’と するが故の混乱。アキレスのパラドックスが「最後の一歩」なら、こちらは「最初の一歩」を問題にしている、と言えよう。 その3[飛ぶ矢の逆説]:無限小の時間である「今」に於いて矢は静止しているが故に、飛ぶ矢は飛び得ない、とする逆理。しかし、時点t で矢は確かに特定の位置に静止しているが、別の時点t’では別の位置に静止している訳で、この‘時間の経過に伴いその位置が変化すること’ を「運動」と言うのであるから、やはり「飛ぶ矢は飛ぶ」のである。 以上の逆説解釈を一言でまとめれば「思弁は、現実に届かず」ということ。最新の脳科学では「脳は世界を0.3〜0.5秒遅く認識する」
(T.ノーレットランダーシュ『ユーザーイリュージョン』)という驚くべき事実が報告されているが、これも「脳=思弁」の限界を示す一例と言える。
なおかのトルストイが、この‘アキレウスと亀’について言及している箇所が有るので、ご参考までに掲げておく。 「アキレウスがどうしても亀に追いつけないというこの無意義な回答は、アキレウスと亀の動きが不断のものであるにもかかわらず、運動の 断片的部分が恣意的に切り取られたために得られたものである。(この無意義さを認識すれば:編者注)万人の自由意志はある一人の歴史的人 物(→ナポレオン)の行動に表現されるなどと言うことを容認することは、それ自体虚偽であることを我々は痛感するのである」(『戦争と平 和』より) 悠久たる歴史の流れの中で、個々人の行為は限りなく微少なものであるかもしれぬ。しかしその無数の自由意志の連なりこそが歴史なのだ、と トルストイ翁は宣言する。名も無い人々のエネルギーの集積こそが、アキレウスを動かし‘亀’という名の権力者に勝利する原動力、なのであ る。 |
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「生命と宇宙と万物の答え」の法則(発見者:D.アダムズ) 生命と宇宙と万物についての究極の疑問の答えは……42である。
[解釈] この‘答え’が載っている「銀河ヒッチハイク・ガイド・シリーズ」はSF翻訳作品中では出色のユ
ーモア作品。著者アダムズはイギリスのシナリオ作家。さすが、モンティパイソやMr.ビーンを産んだ国の出身だけのことはある。 [注] 一方、アメリカ・ユーモアSFの雄・K.ヴォネッガットJrにも、同じ趣向でコンピュ ーターに「自分たちの存在目的は?」と問いかける話がある。その答えは「ゼロ」。これは少し当たり前すぎて、ここは数が多い方(!) に軍配を上げたい。 ![]() |
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「嫉妬」の法則(発見者:D.ラガーシュ、M.クライン、G.ドゥピエール) 人は、自分が正当に所有すると考える人間、またはその愛情を奪われ、また奪われる可能性に対して嫉妬する。
[解釈] 「嫉妬」はよく「羨望」と混同されるが、「羨望」は、「他人が望ましい何かを我がものとして楽しんでいることへの怒りの感情」であり、あくまで、ただ一人の人物に対する関係である。一方で「嫉妬」は、「主に愛情に関係していて、当然自分のものと感じていた愛情が、競争者に奪い去られたか、奪い去られる危険があると感じた故の憎しみ」であり、自分以外に少なくとも2人の人物との関係を含んだものである(従って「嫉妬」の方が「羨望」よりも高度であり、発生的にも遅れて生じる感情なんですナ)。 |
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「七息思案(しちそくしあん)」の法則(発見者:山本常朝、葉室燐) 流れるように、さわやかに、凛とした気持ちでいれば、七つ息をする間に考えはまとまるものである。
[解釈] 山本常朝は、佐賀藩士。藩主鍋島光茂(みつしげ)に御側(おそば)小僧、小小姓(こごしょう)として仕えた。光茂死後に隠遁したが、後輩の田代陣基(つらもと)(1678―1748)の来訪を受け、後世、武士道のバイブルと評される『葉隠』全11巻を完成させた。 ![]() |
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「喪失」の法則(発見者:田口ランデイ) 喪失とは、瞬間的な狂気である。
[解釈] 田口ランデイは、人気ネットコラムから産まれた全く新しい形のベストセラー作家。
しかしその小説は意外なほどにオーソドックスで、失恋や肉親の死、といった理不尽な出来事を題材に、真率な省察が繰り広げられる
良質なエンターテインメント、である。 [注] しかしランデイ氏は後に、こうした‘他者と心身で繋がる’ことの辛さを克服。他者 によって痛みを感ずるのは、実は、自らの中にその痛みの相似形があるためだ、という発見に至る。すなわち他者による痛みは、自らが 内包する同種の痛みに気付かせてくれ、ために癒しの「光」となる筈だ、と主張するのである。身辺何かと喧しいランデイ氏だが、こうした 啓示に満ちた発言をする作家魂は、信頼するに足る。 |
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