当たり外れの法則(発見者:橋本治)
人生には当たり外れが有るんだよ。 [解釈] 「何故払はこうも不幸なのでしょう?」(23才.OL)という人生相談に対する橋本氏の回答がこれ。安易な
相談をもちかけた女性に対し、この答えは些か残酷。ただ根つから不運な人には、反ってこの言葉が優しい響きを持つことも、聡明な回答
者は計算済みだろう。「君は外れ」と自らを客観視させることによって、絶望の縁でもがく自分自身を冷静に見つめ直させようとする試み―
―これが橋本流ショック療法なのである。 [注] この過激なる人生相談は、『親子の世紀末人生相談』(フィクション・インク社)という一冊の本に纏め られている。人生相談本としては類書を遥かに圧する労作と言ってよい。また、最近の著者は、三島由紀夫の謎を分析。この鬼才の精神構造を「塔の中に幽閉された王子の心境」と断じて、相変わらず歯切れが良い。 特に、三島が憎悪したのが(有名な‘蟹’だけではなく)松本清張だった、という指摘には蒙を啓かれた。子供の心を持つ王子にとって 、憎むべきは清張に代表される「大人の俗っぽさ」だったというのは、言われてみれば尤もである。なお清張も三島が嫌いだったようで 、その死を「才能の枯渇」と主張して譲らなかったそうな(元編集者・宮田毬栄氏の回想)。これもまた見事な憎みっぷり、ではある。 |
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アメリカ・ビジネスマンの成功法則
(発見者:G.カプラン) 成功の秘訣は、自分の職場で物事がどの様に進んでいるか、自分に何が期待されているか等を最低限知っておくことだ。 [解釈] 3年間に300人のビジネス・エリートにインタビューした結果がこの通り。アメリカのトップ・エグゼク ティブが何を考えているのかが伺えて興味深かったが(但し、少し未整理)、その結論は意外と常識的。これは『エクセレント・力ンンパニ ー』、『パーフェクト・カンパニー』といった優良企業分析本でもほぼ同じ。企業家族主義の我が国以上にアメリカ・ビジネス界が企業至上 主義であるのが面白い。
[注] 一時評判になった大部なインタビュー集『仕事!』(スタッズ・ターケル著・昌文社)は、 本書の庶民版といったところ。ホワイトカラーよりブルーカラー、男より女の方が威勢がいいのは、インタビューワーの姿勢によるものか。 その最も印象的な一節:ウエートレス「落としたフォークを取るのにも格好があるのよ。私は舞台の上にいるんだからあ」――見事なプロ 意識である。 |
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アン・ランダースの成功法則(発見者:アン・ランダース) Success is to know that you have enriched the life to even one person. (わずかひとり分の人生であれ豊かにしたと感じること、 それが成功と言うものです。) [解釈] 突然英語が出てきて驚かれたと思うが、これは編者の読んだのが対訳本だったため。原文の味を知るの も如何かと揚げてみた次第(まあ、たいした名文とも思えないが)。アン・ランダース女史は千紙に上る新聞と七千万に及ぶ読者の圧倒的な 指示を得た‘身の上相談コラムニスト’。その相談は我が国のそれが磨り硝子越しの暗い悩みごとであるのに比し、よリドライかつラ ディカル。「結婚して5年になりますが、夫以外の女性(!)に引かれるのですが…」なんてレズっぼい投書もあり、アメリカ性革命の進行振りをも伺わ せてくれる。なお、この質間に対する女史の回答は「ぜひカウンセリングを」というもの。あまり親身でないところがいいじやありません か。 [注] 女史が身の上相談を始めて、早や30年。その回答は、何よりも実務的、実用的と評される。朝日新聞のインタビューに答えて、これか らは恐らく老人問題が最大のテーマと言い切る勘はさすがに鋭い。なお、もう一人日本に紹介されている身の上相談のプロが 「コスモポリタン」誌のイルマ・クルツおばさん。アンが平凡な主婦の代表なら、こちらはキャリア・ウーマンの代表選手。でも、その回答 の楽天性は驚くほど似通っている。‘すベての問題は必ず解決できる’−−これが彼女達の明快な回答を支える信念なのである。 |
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「イリュージョン」の法則(発見者:日高敏隆、ユクスキュル) すべての生き物は何らかの「イリュージョン」を持たない限り、世界を認識できない。 [解釈] 日高敏隆氏は、著名な動物行動学者。後掲の天才・竹内久美子女子の先生でもある。 [注] この「イリュージョン」という考え方は様々に応用でき、かのドーキンス教授の「利己的遺伝子」説も、「進化論」仮説に取って代わった「イリュージョン」のひとつとなる。 |
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一日一枚の法則(発見者:野上弥生子) 一日一枚原稿を書けば、一年で365枚になる。 [解釈] まあ、当り前と言えば当り前なのだが、これを御年百歳の野上弥生子が言っていたとなると話は別。
北軽井沢に一人住んだ「世界文学史上稀有の現役作家」(中野孝次評)が自らの明治の青春を‘一日一枚’づつ書いて、大作『森』の完成直前
にまで達した、という事実。その営々たる努力に思いを至さねばならぬ。 [注] 著者は、S60年3月30日、百歳の誕生日を前に大往生。あと数十枚も書けば終わり、と 担当編集者に語っていた大作『森』は、ついに未完のまま終わった。だが、終始、野上を支持してきた批評家・故篠田一士は「これを、完成 された長編小説に見合うものとして読むことは一向に差し支えない」(本書解説)と保証する。ここはひとつ、その言に率直に従つておきた い。 |
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意思決定の法則(発見者:ノイマン/モルゲンシュタイン) 無知の状況下では、ミニマムな利得が最大になるような方法を選ぶべきである。 [解釈] かの「ゲームの理論」の基礎。いわゆる‘ミニ・マックスの原理’として知られる方法である。簡単に説
明すれば、これから出掛けるというとき雨が降りそうだが傘を持って行くべきかどうか、といった問題を解決するために使用。数字を
使った一つのモデルを掲げれば、次の通りである。 [傘と天気の利得行列]
枠内の数字が各選択肢(a.傘を持って行く、b=傘を持って行かない)を選んだ時の各状態(X=雨が降らない,Y=雨が降る)での利得を示 す。ここでミニマムが最大(上表では「1」)な選択はaであるのでゲームの演者はaを選ぶ、という訳。 |
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ヴィトゲンシュタインの「神と他人」の法則(発見者:ヴィトゲンシュタイン) 神の存在を確信をもって信じることができるなら、他人の心の存在も信じることができるのではないか。 [解釈] 没後編集された手稿集『反哲学的断章』の内、1948年に書かれたメモの一節。20世紀を代表する‘天才哲
学者’ヴィトゲンシュタインの、最晩年の思索である。 [注] 若きヴィトゲンシュタインは、ラッセル、ムーアという英哲学界の巨人に対し「(『論理哲学論考』を)説明してあげても、あなたがたにはわ かるわけがない!」と言い放った、という。そんな天才が極限まで考えた思索が一朝一夕に‘わかるわけがない’ので、その論理学への評者なり の解釈は、遠い将来の宿題としたい。今はただ、「ある人が書いたものが偉大であるかどうかは、それ以外にその人が書いたもの、またその人の 行動すべてによって、決定される」と書いたヴィトゲンシュタインの覚悟に共感し、残された‘簡潔で風通しの良いアフォリズム’(丘澤静也) を味わうのみ、である。 |
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運転免許取得の法則(発見者:矢原秀人・茂原勉 他) @良い教官に当たること、A良い参考書に当たること、の二つが免許取得の早道である。 [解釈] 編者が中年に至って免許を取得した時の、実感的法則。 [注] と言いながら、編者は相変わらずのペイパー・ドライバー。当法則もあまり信用され ないのがよろしかろう。 |
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宇野千代の法則(発見者:宇野千代) 人間は、実は、人間という動物なのです。 [解釈] 晩年に至つて一種のブームの様相を呈した宇野千代の、含蓄深い人生論の根本。人間は動物、従って、
その動物的カンによって行動せよ、という実に単純な教えである。それで失敗したらどうするのか、と問えば「忘れておしまいなさい」とア
ッサリ回答。齢八十にしてなお闊達かつ自在な精神には感服の他は無い。 [注] その波乱万丈の愛情生活を回想した次の発言にもご注目を。同じく恋愛巧者の瀬戸内晴美との対 談での心情吐露である。 瀬戸内:別れるとき、思い切りがいいですね、先生。 この‘武士道’ってのがいいじやありませんか。なお、この人生の達人が尊敬してやまないのが、前掲の野上弥生子。「野上先生は強いん だ。強い。強いんだ、もう」と率直に告白している。達人女性同士のみがなし得る、深い心の交感である。 |
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NLP(神経言語プログラミング)の法則(発見者:J.グリンダー&R.バンドラー) 願望の実現後を想像すれば、「無意識」が現在の自分を"目標を手に入れて当然"と思い、その結果、 願望が向うからやって来る(これをNLPでは「OUTCOME アウトカム」という) 。 [解釈]
NLPとは、Neuro-Linguistic Programming
「神経言語プログラミング」の略で、’70年代にJ.グリンダー、R.バンドラーの両博士によって基礎理論が確立された心理学的手法。当時、心理治療の天才といわれた3人のセラピスト(ゲシュタルト心理学F.パールズ、催眠療法M.H.エリクソン、家族療法V.サティア)がいたが、その“治療成功法”を検討して導き出された方法である。
ここで「願望の実現後を想像する」ことを、NLPでは
「メタ・アウトカム」、「アズ・イフ・フレーム」("まるで目標ができたような観点"というところか)といい、この考え方こそが当法則の“ツボ”と言ってよい。 [注] 後掲石井裕之氏は
その「『心のブレーキの外し方』の法則」で、「無意識」は「いつまでも考え続け、
今この瞬間しかない」とし「根拠のない自信があればいい」と主張するが、これは当理論の「脳@」「 無意識@」及び「無意識B」に各々相当している。同じく後掲ひすいこたろう氏は
「『時は癒す』の法則」で、「脳は合理的な理屈を勝手に見つける」として「脳@」の考え方を踏襲。さらに「未来から逆算して現在の行動を決定せよ」というが、これは殆どNLPのメタ・アウトカムの考え方と言ってよい。 これら(石井氏、ひすい氏の考え方)はNLPとどちらがオリジナルかということではなく、人生の成功法則を突き詰めればだいたい同じところに行き着く、ということであろうか。
というのも古典的な自己啓発本『成功哲学』の中に、(NLPも含め)これらの考え方の萌芽と言うべきものが認められるからである。著者ナポレオン・ヒルは、朝夕「私は、必ず成功する/私は、必ずやり遂げる」という宣言文を唱え続ければ、成功間違いなしと保証するが、これこそ「無意識」への“自己肯定のスリ込み”に他ならない(現代の「成功法則」はそれを我々に納得させるため、より複雑な衣装を纏うようになってはいるが)。 |
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追い歯効果の法則(発見者:M.ガンサー) 状況が悪化して不運が姿を現した時、追い歯(歯車の戻りを防止する装置のこと)をかけて動きがとれなくなる前に脱出するのが「幸運」 を穫得する秘訣である。 [解釈] 名著(と言ってよいと思う)『運・その別れ道』の、印象的な成功法則の一つ。ガンサー氏はその永年の観
察によって、幸運な男女は、不運がさらに不運を招く前にそれを捨てる方法を心得ていることを発見。その好例としてスイス人銀行家の次
の一言を紹介する――「もし虎と綱引きをしているのならば、腕を噛まれる前に虎に綱を与えるべきです。負けることはわかっているのです
から。新しいロープならいつでも買うことできます」 突飛な例だが‘虎’がかなわぬ相手・取り返しのつかぬ事態、を意味していると見れ
ば、言わんとしていることは明快。素早い撤退が次の不運を回避させる、という教えである。 [注] 本書に紹介されている法則としては、後掲の「クモの巣構造の 法則」や「悲観論逆説の法則」など思わず納得の法則が幾つか。成功秘訣本の洪水の中で、ようやく出会えた実証的一冊であった。 |
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「女は同じ」の法則(発見者:山本周五郎) ある意昧では、女はすべて同じようなものだ。 [解釈] 時代小説の巨峰・山本周五郎の短編『女は同じ物語』の冒頭で、父親が主人公の息子に向かってしみじみ と言う言葉。ユーモア溢れるその一節を少し長いが引用する。 「竜右衛門がその息子に言った、『どんな娘でも、結婚してしまえば同じようなものだ、娘のうちはいろいろ違うように見える、ある意味 では確かに違うところもある、が、ある意味では、女は全て同じようなものだ、おまえのお母さんと、枝島の叔母さんを競べてみろ、―― 私は初めお母さんよりも、枝島の、……いやまあいい』と竜右衛門はいった、『とにかく、私の意見はこれだけだ』」 さすが、名人芸を思わせる練達の文章(ただし、少しくどい気もするが)。人生に少し疲れた城代家老としっかりものの妻女、そしておっ
とりしたその息子、といった山本‘滑稽もの’の典型的パターンが、短い文章の中に鮮かに浮かび上がる。 「広一郎はおちついて言った、『仰しやるとうりでした、女は同じでしたよ』」 ちと、あざといところもあるが、やはり水際立った仕上がりといっ てよかろう。そしてこの手の「女は同じ」テーマの佳品としては『しゅるしゅる』、『主計は忙しい』など何れもユーモアにくるんで女性 の不思議さを訴えているのであった。 [注] なお、山本自身の理想の女性像は『おたふく』に出てくる長屋の姉妹。その天衣無縫そして無私の 心こそ、曲軒・山本周五郎がこよなく愛したものである。ただし、その級友・今井達夫の証言では「女はみんな西洋好み」だとか。意外と屈 折した女性観の持ち主であることが伺えよう。 |
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大橋巨泉の「全ては得られない」の法則(発見者:大橋巨泉) You can't have everything.(何でも手に入れようとしてはいけない。) [解釈] 英文を掲げたのは、大橋氏が当法則を教えられたのが、アメリカの友人からだったため。翻訳すれば 上記のごとく変哲もないが、行くところ可ならざるは無きが如き氏の「座右の銘」としては、些か意外の感があろう。ただ、年若い美人アイドルと再婚するにあたり子をつくらないと宣言して手術したり、人気絶頂のときTVの世界から潔く身を引 いてオーストラリアに隠棲したり、と、確かに「何でも手に入れようとしてはいけない」と思い定めた人の行動と見れば、納得がいく。 あの政界からの引退も、物議を醸しはしたが、こうした考えが根底にあっての決断だったのだろうか。[注] 確か山口瞳氏のエッセイ(「男性自身」)に、大橋氏の勝負事への姿勢についての言及が あった。何事もスイスイ調子よく勝ってしまうタイプかと思っていたら、案に相違して、陰でコツコツと勉強して勝利をおさめるタイプで ある、という好意的な文章だった、と記憶する。大橋氏の、これもまた意外な一面、である(なお、氏が生涯の師と仰ぐ三人の内の 一人が、この山口氏であり、その著者『巨泉』で‘物事には両面があり、強者の論理が有れば必ず弱者の論理が有る’ことを教えてく れた恩人だと、告白して いる)。 |
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小椋佳の「心身相反」の法則(発見者:小椋佳) |
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「女は面食い」の法則(発見者:鈴木いづみ) |
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「お金」の法則(発見者:邱永漢)
以上の「仕事」についての考えを、「お金」の問題に絡めて対談相手の糸井氏は次のように纏めてみせる。 |
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